大阪地方裁判所 平成6年(ワ)10330号 判決 1999年3月11日
原告
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
池田直樹
同
工藤展久
同
谷村慎介
同
内海和男
被告
西日本旅客鉄道株式会社
右代表者代表取締役
井手正敬
右訴訟代理人弁護士
占部彰宏
同
田中宏
同
小林和弘
主文
一 原告の違憲違法確認の訴えをいずれも却下する。
二 被告は、原告に対し、金一〇万円及びこれに対する平成六年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 原告と被告との間において、被告学研都市線鴻池新田駅及び同住道駅の各垂直移動箇所に乗客用エレベーターをそれぞれ設置していないことがいずれも違憲違法であることを確認する。
二 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成六年一一月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、電動車いすを使用している身体障害者の原告が、鉄道事業を営む被告に対し、次のような請求をした事案である。
1 被告が、被告学研都市線の鴻池新田駅及び住道駅(以下「本件両駅」という。)において、乗客用エレベーターを設置せず被告駅員の介助を前提とした旅客運送サービスを提供しているのは、憲法一三条、二二条、一四条、国際人権規約、国連総会での宣言、鉄道事業法、障害者基本法等に違反するとともに、旅客運送契約上の安全配慮義務に違反するとして、被告との間で、それが違憲違法であることの確認を求めた。
2 本件両駅に乗客用エレベーターが設置されていないことは、土地工作物の瑕疵に当たるとして、土地工作物責任(民法七一七条)に基づく損害賠償を求めた。
3 原告が本件両駅を利用した際、被告駅員による侮辱的・差別的言動や危険な行為によって精神的苦痛を被ったとして、使用者責任(民法七一五条)又は旅客運送契約上の安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償を求めた。
二 前提となる事実
1(一) 原告は、昭和四一年四月ころ、脳性小児マヒであると診断され、以後リハビリ、針治療、食事療法を続けてきたが、現在も脳性マヒによる緊張性アテトーゼの障害により電動車いすでの生活を余儀なくされ、障害者手帳一種一級の認定を受けている。(<証拠略>)
(二) 被告は、公共交通機関として運輸大臣の免許を受け、同大臣の指導の下に鉄道事業を行うことが許されている株式会社である(争いがない。)。
2 原告は、平成六年一〇月一三日当時、大阪府東大阪市東鴻池町<番地略>に居住しており、被告学研都市線鴻池新田駅(以下「鴻池新田駅」という。)を最寄り駅として被告学研都市線を利用していたが、平成六年一二月ころ、大阪府大東市末広町<番地略>に転居してから現在に至るまで、被告学研都市線住道駅(以下「住道駅」という。)を最寄り駅として被告学研都市線を利用するようになった。原告は、右東鴻池町<番地略>に居住する原告の家族と往き来をする関係で、鴻池新田駅からも被告学研都市線を利用している。(<証拠略>)
3 鴻池新田駅は、高架駅で、駅舎一階が改札乗降口、同二階が電車の発着ホームとなっている。住道駅は、高架駅で、駅舎一階にはテナントが入っており、同二階が改札乗降口、同三階が電車の発着ホームとなっている。本件両駅は、ともにその改札乗降口と電車の発着ホームとの間の垂直移動に供すべき乗客用エレベーターが設置されておらず、改札乗降口と電車の発着ホームとの間の垂直移動は、鴻池新田駅では専ら階段によっており、住道駅では階段とエスカレーターが併用されている。なお、住道駅の駅舎一階と同二階改札乗降口との間の垂直移動箇所には、スロープや車いすに乗ったまま操作することのできるエレベーターが設けられており、車いす利用者もこの間を独力で移動することが可能である。(<証拠略>)
4 原告は、被告に対し、平成三年五月二四日、駅舎等の改善要求に関する一六項目の要望書を提出し、その後、一〇数通の要望書を被告に提出したが、被告は、そのいずれに対しても、文書ではなく口頭で原告に回答した(争いがない。)。
第三 訴訟物と主要な争点
一 本件両駅にエレベーターが設置されていないことが違憲違法であることの確認を求める訴えについて
1 右訴えの適法性(本案前の抗弁)
2 憲法又は法令違反の有無
二 土地工作物の瑕疵による損害賠償請求について
1 本件両駅にエレベーターが設置されていないことによって、土地の工作物の設置に瑕疵があるといえるか
2 右瑕疵により原告に生じた損害とその額
三 被告の社員の侮辱的言動、危険行為による損害賠償請求
1 被告の社員が原告に対して侮辱的行為や危険な行為をしたか。
2 被告の責任原因、損害の発生とその額
3 社員の選任・監督上の注意義務(抗弁)
第四 当事者の主張
一 本件両駅にエレベーターが設置されていないことが違憲違法であることの確認を求める訴えの適法性(本案前の抗弁)
(被告の主張)
確認の訴えが認められるためには、確認の対象が、その存否をめぐって紛争が生じている私法上の権利又は法律関係であるとともに、確認判決を得ることが、当該紛争を解決するための手段として適切であることを要する。
原告は、鴻池新田駅及び住道駅の垂直移動箇所に乗客用エレベーターが設置されていないことが違憲違法であることの確認を求めているが、エレベーターの設置を義務づける私法上の権利又は法律関係が存在しないから、いわば事実状態の確認を求めるものである。
また、仮にエレベーターの不設置が違憲違法であるとの見解に立てば、何らかの訴訟上の請求をなすことができるとしても、エレベーターの設置を要求する具体的な給付請求権があると考えるのであれば、端的にその設置を求めるべきであるし、そのような請求権まではないとするのであれば、その損害の賠償を求める給付訴訟のみを提起すべきなのであって、右の違憲違法は、かかる給付訴訟において前提問題として判断される事柄であるにすぎない。
したがって、原告の違憲違法の確認請求は、訴えの利益を欠く不適法なものである。
(原告の主張)
エレベーターの設置義務は、移動環境整備要求権(憲法二二条)及び平等権(憲法一四条)に基づく憲法上の義務であるし、また、旅客運送契約上の安全配慮義務に基づく法律上の義務でもある。したがって、エレベーターの設置義務の存否をめぐる紛争は、憲法上の権利又は法律関係に関する紛争であるとともに、私法上の権利又は法律関係に関する紛争であるということができる。
また、損害賠償請求という形での給付訴訟しか許されないとすれば、被告は、違憲違法状態を放置したまま損害賠償請求に応じればそれで足りることになり、何ら本件の根本的な解決たり得ず、本件においては、エレベーター不設置の違憲違法を確認することが直截的な救済につながるのである。
よって、右違憲違法の確認請求には訴えの利益が存する。
二 本件両駅にエレベーターが設置されていないことが憲法及び法令に違反するか。
(原告の主張)
1 被告のエレベーター設置義務の根拠
(一) 憲法の直接適用
公権力が私人の私的行為に極めて重要な程度にまでかかわり合いになった場合又は私人が国の行為に準ずるような高度に公的な機能を行使している場合には、当該私人の私的行為を国家行為と同視して憲法を直接適用すべきである。
被告は、現在株式を公開しているものの、その主たる株主は国鉄清算事業団であること、日本国有鉄道下における組織・設備等一切をそのまま引き継いで設立された株式会社であって赤字ローカル線の維持等採算を度外視した事業をも担う使命を負っていること及び鉄道事業を開始するには、鉄道事業法によって運輸大臣の免許が必要であるとされており、その運営について国の強力な指導のもとにおかれていることなどにかんがみれば、被告の行為を、国家行為と同視して憲法を直接適用すべきである。
(二) 移動環境整備要求権
経済活動における移動の自由は憲法二二条によって保障されているが、自由な移動が保障されていることはあらゆる社会生活の前提であり、憲法一三条からそのような権利が導き出されることからすると、憲法二二条の解釈としても、精神的自由権としての移動の自由が保障されていると解すべきである。
憲法二二条によって保障される移動の自由は、国家によって移動の自由を妨げられないという消極的権利として理解されてきたが、車いす利用者などの移動制約者は、国家に対し移動を妨害しないよう要求するだけでは、移動の自由を享受できず、健常者が享受しうるものと同様の安全性と利便性を備えた移動の自由を享受するためには、スロープやエレベーターなど相応の設備を設置することが不可欠であるから、憲法二二条の内容として、消極的権利としての妨害排除請求にとどまらず、自由に移動できる環境の整備を要求する積極的権利としての移動環境整備要求権が保障されていると解すべきである。
(三) 移動環境整備における平等保障(憲法一四条)
車いす利用者などの移動制約者の移動環境整備要求権は健常者と同等の移動の自由の保障をすることを目的としており、憲法一四条を根拠として導くことも可能である。
すなわち、車いす利用者などの身体障害者は、健常者と同じ乗客であるにもかかわらず、移動制約者であるが故に、利用における安全性を軽視され、移動に要する時間に配慮がなされず、他人の善意に頼ることを強いられ、さらし者になることを強いられている。このような現状では、同じ社会の一員としての尊厳を守れない。移動環境整備という場面での平等保障は、移動制約者の尊厳を保障する上で最も根元的な原則といえる。憲法一四条は、絶対的平等を前提とするものではなく、合理的差別は許されるとされているが、移動制約者を区別し明らかに差別的環境に放置することについては、何ら合理的な理由があるとは考えられず、不合理であるがやむを得ない差別として許容することもあり得ない。
(四) 国際人権規約、障害者のための権利に関する宣言
市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権規約B規約」という。)一二条は、「全ての者は、当該領域において移動の自由についての権利を有する。」と規定しており、ここに保障された移動の自由は、旅行、通勤、通学、買い物、散歩その他日常的な外出など人の移動と考えられることは全て含まれる。そして、特に障害者の自由について、国際人権規約において定められた右権利を具体化するため、一九七五年一二月九日、国際連合の総会において、「障害者の権利に関する宣言」が採択され、その中で「障害者は、可能な限り自立できるように企図された諸手段を受ける資格を持っている。」と明記されるとともに、「障害者は、経済的・社会的計画立案のあらゆる段階で、彼等の特別なニーズが考慮される資格を持っている。」と示された。
右障害者の権利に関する宣言については、その前文に「障害者の権利に関するこの宣言を布告し、また、以下の権利を保護するための共通の基礎及び枠組みとして用いられることを確保するための国内的・国際的行動を要求する。」と明記され、締約国の責務として宣言に明記された権利を実施する国内法等の法整備を義務づけるとともに、国内での具体的な行動を求めている。
(五) 鉄道事業法
鉄道事業法は、「鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものにすることにより、鉄道等の利用者の利益を保護する。」ことを目的とし(一条)、かつ、鉄道利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは、運輸大臣が、鉄道事業者に対し、「旅客の安全かつ円滑な輸送を確保するための措置」を命ずることができるとされている(二三条一項六号)。
この規定は、直接的には運輸大臣の権限を定めたものではあるが、その根底には、鉄道事業という独占的かつ国家的に重要な事業を営む事業者がその責務として、乗客の安全な輸送を実現するための設備等の改善義務を負っていることを意味しているのである。
(六) 安全配慮義務
一定の契約関係に基づき特別の社会的接触に入った当事者の一方又は双方は、その法律関係において生ずることあるべき損害発生の危険から、他方当事者の生命・身体の安全を確保すべき包括的義務を負っている。原告は、被告の設置する鉄道施設を契約に基づいて日常的に繰り返し利用しており、旅客運送契約という契約関係に基づく特別な社会的接触を持つに至った当事者であるから、被告は、原告に対して、その生命・身体の安全を確保すべき義務を負っており、その義務の具体的内容として、重度障害を持つ原告が健常者と同じ条件で自分の意思のみによって自由に移動できるような設備すなわちエレベーターを設置する義務を負っている。
(七) 障害者基本法
障害者基本法は、「交通施設その他の公共的施設を設置する事業者は、社会連帯の理念に基づき、当該公共的施設の構造、設備の整備等について障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない。」(二二条の二第二項)、「国及び地方公共団体は、事業者が設置する交通施設その他の公共的施設の構造、設備の整備等について障害者の利用の便宜を図るための適切な配慮が行われるよう必要な施策を講じなければならない。」(二二条の二第三項)としているところ、右にいう便宜については、ガイドラインによってエレベーターの設置として具体化されているから、被告は、国及び地方公共団体との協力の下、エレベーターを設置すべき義務を負っている。
(八) 大阪府福祉のまちづくり条例
大阪府福祉のまちづくり条例では、不特定多数の者が利用する建築物、道路、公園などの「都市施設」について、新設・既設を問わず、事業者に対し、条例で定める整備基準に適合させる義務を負わせている。既設のものについては、整備基準との適合状況の調査や、改善計画の策定などの一定の手続を求めており、この手続を行わない時には、勧告ができることとされている。
2 被告の設置義務違反
(一) 国や地方自治体等は、「障害者対策に関する新長期計画」、「大阪府福祉のまちづくり条例」、「ハートビル法(高齢者、身体障害者が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)」、「鉄道駅におけるエレベーターの整備指針」、「大阪市交通局ええまち計画」、「日本開発銀行、財団法人交通アメニティ推進機構等による融資・助成制度」などにおいて、エレベーターの設置をする政策を推進している。
(二) 被告の路線駅におけるエレベーター設置駅の占める割合は、近畿地区の大手私鉄の中でも最低である。
(三) アメリカにおいては、エレベーターの設置義務は当然の義務として履行されており、日本における被告の設置状況とは対照的である。
3 本件両駅にエレベーターを設置することは、駅舎の構造上可能であり、かつ容易である。エレベーターの設置についての融資・助成制度も存在し、関係自治体の協力は確実に得られるのであり、これまで放置されてきたのは、まさに被告の怠慢であったといわざるを得ない。
(被告の主張)
1 違憲性・違法性について
(一) 憲法規範の直接適用について
憲法規範は、もっぱら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない(最高裁判所昭和四八年一二月一二日・民集二七巻一一号一五三六頁)。被告は、その株式を一般に公開している一私企業であり、憲法が直接適用されることはない。
また、そもそも、憲法九八条一項の「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、私人と対等の立場で行う国の行為は、かかる法規範の定立を伴わないから、「国務に関するその他の行為」に該当しない(最高裁判所平成元年六月二〇日判決・民集四三巻六号三八五頁)とされているところ、鉄道事業は、まさに公権力を行使して法規範を定立する行為ではなく、私人と対等の立場で行う行為といえるので、仮に被告を国家と同視できるとの見解を採ったとしても、被告の行為に対して憲法が直接適用される余地はない。
(二) 移動環境整備要求権について
憲法二二条が移動環境整備要求権を保障したものであるとする原告の主張は独自の見解にすぎない。憲法二二条は、国家によって移動を妨げられない自由を保障したものであり、本来国家からの自由、国家に対する不作為請求及び妨害排除請求を基本的内容とすると理解されてきたのである。このような自由権の保障と原告の主張する移動環境整備要求権とは、国家に対する不作為請求と作為請求という全く相反する方向性を有するものであって、同じ憲法の条項に両者が含まれていると解釈することは困難である。
(三) 平等権について
社会の中には、移動制約者に限らず様々なハンディキャップを持つ人がおり、これらの人々が全て健常者と同等に行動できるような環境が整備されることが理想であるが、そのための設備は、エレベーターの設置に限られるものではなく、様々な設備が必要となるところ、これは一朝一夕に実現できることではないので、その時々の社会的背景も考慮して時間の流れの中で評価すべき事柄である。ある一時点をとらえて移動制約者が健常者と同等の条件で移動できなければ憲法一四条の平等保障に反するとする原告の主張には論理の飛躍がある。
(四) 条約上の根拠について
国際人権規約B規約は、国又は地方公共団体の責務を定めるものであり、私人相互の関係を直接規律するものではない。
障害者のための権利に関する宣言は、加盟国に向けられた努力規定であり、被告に直接適用されるものではない。
(五) 鉄道事業法について
被告は、普通鉄道構造規則等の関係諸法令に基づいて駅舎等の施設を建設しているのであって、本件両駅にエレベーターが設置されていないことは、鉄道事業法を始めとする関係諸法令に何ら違反するところはない。鉄道事業法の精神から、駅設備にエレベーターを設置する義務が生じるという原告の主張は、独自の見解にすぎない。
(六) 安全配慮義務について
被告は、関係諸法令に基づいて駅舎等の施設を建設し、移動制約者の移動に際しても十分に配慮しており、安全配慮義務違反はない。原告が健常者と同じ条件で自分の意思のみによって自由に移動できるような設備を設置すべきであるという主張は、利便性の問題と安全性の問題を混同した議論である。
階段昇降機は、安全性に十分配慮した構造となっており、順次改良されている。エスカレーターについても、被告の駅員が安全に配慮して適切に対応しており、安全性は確保されている。
原告の主張する危険性とは、詰まるところ原告の感じる心理的な不安感ということになるが、不安感は主観的なものであり個人差があるので、仮に原告が不安感を抱くことがあったとしても、これのみを根拠に安全配慮義務違反があるとすることはできない。
(七) 大阪府福祉のまちづくり条例
右条例は、事業者の努力義務を定めたものである。被告は、運輸省の指針にしたがって現在エレベーターの整備を進めているところであるから、右条例に適合していないことが、原告との関係において何らの義務違反になるものではない。
2 被告の義務違反の主張について
(一) 被告のエレベーター設置等の取組み
平成五年に運輸省によって、新たに「鉄道駅におけるエレベーターの整備指針」が策定され駅の垂直移動に関して、エレベーターを設置することを基本とすることに改められたのを踏まえて、被告は、平成五年以降はエレベーターを基本として整備を進めており、右指針策定後の新駅及び大改良をした駅のほとんど全部にエレベーターを設置した。
被告は、今後も、右指針に該当する駅を対象として、移動制約者の利用数、地域の協力の程度、地形、駅の構造等を勘案しつつ、基本的には乗降客の多い駅から、地元自治体との協議を踏まえて検討を進めていくことになるが、大阪駅や天王寺駅などの一日の乗降客が一〇万人以上の駅にもエレベーターが未設置のところがあり、優先順位の高い大きな駅ほどホーム数が多く、一駅に設置を要するエレベーター数も多数になる傾向があることから、本件両駅のような乗降客の相対的に少ない駅について、エレベーター設置の可能性を検討するのはしばらく先になる。
(二) 鉄道各社の個別事情の違いを捨象して、路線駅におけるエレベーター設置駅の占める割合だけを比較しても意味がない。前記エレベーターの整備指針の対象となる駅における被告のエレベーター設置率はJR各社及び民鉄の全国平均を上回っていることに加えて、近年における被告のエレベーター整備の進捗速度は関西の大手私鉄と比べても決して遜色のないものである。
(三) 本件両駅にエレベーターを設置することは、駅舎の構造や利用状況、法令による規制などからくる技術的、物理的な問題があって容易ではなく、これらの問題をすべて解決するためには膨大な費用を要する。
三 本件両駅にエレベーターが設置されていないことによって、被告が土地工作物責任を負うか。
(原告の主張)
1 高架駅にエレベーターが設置されていないことは明らかに違憲違法であり、これによる被告の責任について民法の中に根拠を求めるならば、民法七一七条ということになる。
2 また、被告は、本件両駅にエレベーターが設置されていないため、車いす利用者のために次のような対応を行い、車いす利用者の生命身体を危険にさらしたり、車いす利用者を他の乗客の好奇の目にさらしたりする結果を招いている。
(一) 鴻池新田駅の対応
被告は、車いす利用者が、鴻池新田駅において、駅舎一階改札乗降口と同二階の電車発着ホームとの間を垂直移動する場合、身体障害者が車いすに乗ったままの状態で駅舎に設けられた階段を昇降することができるよう階段昇降機を利用して駅員二名で介助している。
しかし、階段昇降機を使用した階段の昇降については、①バッテリーの耐用時間、②被告駅員の介助の負担、③落下の危険性、④介護を担当する被告駅員の熟練度を客観的に担保する手段が講じられていないなどその安全性について極めて問題が多い。
また、右の方法による階段の昇降は、相当程度の時間を要するばかりか、健常者による階段の使用を妨げることとなり、他の乗客の好奇の目にさらされるなどの不利益も甘受しなければならないこととなる。
(二) 住道駅の対応
被告は、車いす利用者が、住道駅において、駅舎二階の改札乗降口と同三階の電車の発着ホームとの間を垂直移動する場合、住道駅に設置されているエスカレーターを利用して駅員一名又は二名でこれを介助している。
しかし、かかるエスカレーターを使用した昇降についても、①被告駅員による介助の負担、②乗る際に横転してしまう危険性、③車いす利用者が後ろに四〇度傾いた状態での昇降、③車いすの衝撃によるエスカレーターの安全装置の作動、④エスカレーターから降りる際にフロアとエスカレーターの境のところでつまづく危険性など問題点が多い。
3 したがって、本件両駅の駅舎は、車いす利用者の利用する駅舎として通常備えるべき安全性を欠いているというべきであり、その占有者でありかつ所有者である被告は、民法七一七条に基づき、原告に生じた損害を賠償しなければならない。
(被告の主張)
1 本件両駅においては、エレベーターが設置されておらず、車いす利用者に対しては、階段昇降機による介助及びエスカレーターによる介助を行っているが、かかる介助は、被告として、車いす利用者に対して、安全面にも配慮した上で、万全を期して現状の中でできる限りのサービスを提供しているのであって、原告、被告駅員及び他の乗客にとっても何ら危険性は存在しない。また、仮に原告が心理的な不安感を感じたとしても、かかる心理的な不安感については個人差があるから、これを理由に、階段昇降機又はエスカレーターによる介助を前提としたエレベーターの設置されていない本件両駅の駅舎をもって、駅舎として通常備えるべき安全性を欠いているということはできない。
2 したがって、被告が民法七一七条に基づく損害賠償責任を負うことはない。
四 侮辱的言動・危険行為による損害賠償請求
1 侮辱的言動・危険行為の有無
(一) 侮辱的言動・危険行為(一)
(原告の主張)
被告駅員の中村啓一(以下「中村」という。)は、平成三年ころ、鴻池新田駅から被告学研都市線の電車に乗ろうとした原告に対し、無断で原告のかばんを開披して中にあった手帳から原告宅の電話番号を確認した上で、原告宅に電話をかけ、原告の母親に対し、「今後は電車に乗せた後、事故が起こっても責任を持たない。」と一方的に告げた。
(被告の主張)
被告駅員の中村及び林田和穂(以下「林田」という。)は、同年九月ころ、いつもは母親と一緒に電車に乗っていた原告が一人で鴻池新田駅に来たため、これを不審に感じるとともに母親が心配しているのではないかと思い、右中村が、原告に「連絡先を調べさせて下さい。」と断ってから、原告のかばんの中のノートを見たのであるが、その際、原告は明確に拒否を示していなかった。そして、林田が、原告の母親に連絡をとったが、「今後は事故が起こっても責任を持たない。」などとは言っていない。
(二) 侮辱的言動・危険行為(二)
(原告の主張)
被告駅員の直井和夫(以下「直井」という。)は、原告に対し、平成三年一一月一二日、鴻池新田駅ホームにおいて、大勢の乗客が見ている中で「はよ前へ行かんかい。」とかなり強い口調でいいながら、電動車いすのタイヤを蹴った。
(被告の主張)
被告駅員の直井は、外五名の駅員とともに、原告をおみこし方式で電車の発着ホームまで運び上げた際、車いすを置いた場所が階段のすぐそばだったことから、階段の方に落ちてきては危ないと思い、「前へ行ってや。」とは言ったが、決して強い口調ではない。直井が、点呼を受けに駅事務室に戻るために体を反転して階段を下りる際、その体が車いすに触れたかもしれないが、故意に蹴ってはいない。原告の思いこみと勘違いである。
(三) 侮辱的言動・危険行為(三)
(原告の主張)
原告は、同年一二月一四日、被告環状線鶴橋駅外回り線ホームにおいて、見知らぬ人から頭をいきなり殴られたので、しばらくして近くを通りかかった被告駅員の元田辰正(以下「元田」という。)に対し、「今殴った人を捕まえて下さいなあ。」と頼んだが、元田はこれを無視した。
(被告の主張)
元田は、電車の発車を確認していて、原告が殴られる現場を目撃していなかったため、原告から「今殴った人を捕まえて下さいなあ。」と言われても、何のことか分からなかった。まして、殴った人を捕まえられなかったことはやむを得ないことである。
(四) 侮辱的言動・危険行為(四)
(原告の主張)
被告環状線京橋駅助役の南澤益男(以下「南澤」という。)は、原告に対し、平成四年四月八日、「満員電車には乗ってくれるな。」とか、帰りには「住道に行け。」とか、命令形のような強い口調で言った。
(被告の主張)
南澤は、電車が満員で原告が当該電車にスムーズに乗車できない状況のときに、原告に対し「満員なので後の電車にして下さい。」と言ったことはあるが、命令口調ではなかった。なお、そのような状況にあるときでも、原告が「どうしてもこの電車に乗る。」といった場合には、他の乗客に頼んで乗車スペースを空けてもらい、原告に乗車してもらっていた。
南澤は、原告が快速電車に乗ろうとしたときに、快速電車が鴻池新田駅には止まらないことから、「住道駅まで行って下さい。」と言ったことはあるが、命令口調ではなかった。
(五) 侮辱的言動・危険行為(五)
(原告の主張)
被告環状線京橋駅の駅員は、平成四年六月一日、京橋駅で電車から降りた原告に対し、少し大きめの声で「邪魔な車いすやなあ、他のお客さんが迷惑やないか。」と言った。
(被告の主張)
当該駅員は、当日、徹夜明けで大変疲れていたが、朝から車いす利用者五名の介助を行うなどしたため更に疲労していた。そのようなときに、原告が、電車から降りてきて、ちょうど多数の乗客があり混雑していたため、右駅員は、原告に対して、つい失礼な発言をしてしまったものである。
右の点については、後日、原告から抗議を受け、その当日のうちに、被告の広報担当社員が、原告の母親を通じて謝罪している。不法行為又は債務不履行として慰謝料請求の対象になるほどのものではない。
(六) 侮辱的言動・危険行為(六)
(原告の主張)
被告の駅員は、同月二一日、鴻池新田駅において、電車から降りた原告に対し、「こんな遅く帰ってきても駅員が少ないから困るやないかあ、もっと早く帰ってもらえないか。」と言った。
(被告の主張)
被告駅員の田中勲は、「この時間帯に降りてこられますと普段は一人しかいないので、もう少し早めに帰られた方がいいですよ。」と言ったのであり、原告主張のような発言はしていない。
(七) 侮辱的言動・危険行為(七)
(原告の主張)
被告の駅員は、同年七月六日、鴻池新田駅で電車から降りた原告に対し、「この駅は駅員が少ないから、行きも帰りも両方というのは困る。頼むから来んといてくれ。」と言った。
(被告の主張)
若干不適切な発言であったので、被告は直ちに原告に謝罪しており、不法行為又は債務不履行として慰謝料請求の対象になるほどのものではない。
(八) 侮辱的言動・危険行為(八)
(原告の主張)
被告の駅員は、同年八月二〇日、原告が被告環状線鶴橋駅のホームで電車を待っていたときに、原告の許可を求めずに、電動車いすのモーターブレーキを解除してしまった。
(被告の主張)
当該駅員は、いつも原告のそばにいて一緒に行動しており、顔見知りであるところ、原告が乗車する時間がラッシュ時間帯にかかるので、移動して案内するための親切心からした行動である。原告の意向には沿わなかったかもしれないが、不法行為又は債務不履行になるものではない。
(九) 侮辱的言動・危険行為(九)
(原告の主張)
被告駅員は、同年九月二三日、被告環状線京橋駅南改札口において、原告が「今から、鴻池新田まで行きたいんだけど連絡とってもらえませんか。」と頼んだ際、「鴻池新田は駅員がいてないからだめだ。」と言った。
(被告の主張)
被告の駅員が客に対して希望の駅に行くなという趣旨の発言をするはずがない。
2 被告の責任原因、損害の発生とその額
(原告の主張)
(一) 前記のような被告駅員による侮辱的言動・危険行為は、被告駅員の故意又は過失によるものである。
(二) これらは、被告の業務の遂行として行われたものであるから、被告は、右不法行為について使用者責任を負う。
(三) 右侮辱的言動・危険行為は、原告が乗車券を購入して被告との間で旅客運送契約を締結し、被告の鉄道施設を利用しようとした際に発生したものである。被告は、旅客運送契約の内容として、その利用者が安全円滑に鉄道施設を利用できるよう配慮すべき義務を負っており、被告駅員はその履行補助者に当たる。
(四) 原告は、被告駅員による右侮辱的言動・危険行為によって、プライバシーを侵害され、名誉ないし名誉感情を侵害され、行動の自由を侵害され、その運送施設の円滑な利用を妨げられるとともに、生命・身体に対する具体的・現実的な危険を味わった。その精神的損害は一〇〇万円を下回らない。
3 社員の選任・監督上の注意義務(抗弁)
(被告の主張)
被告は、身体障害者の乗客に対する接客について、健常者の乗客と同様に対応するという姿勢で、言葉遣い等を日々の業務の中で指導(以下「職場指導」という。)しており、特に、車いす利用者については、その安全性を確保すべく、階段の上り下りの仕方、電車の乗せ方等について具体的に職場指導している。
したがって、被告は、社員の選任・監督の際に必要とされる注意義務を果たしているから、被告駅員による不法行為について使用者責任を負わない。
なお、被告は、駅員の指導・教育について、職場指導を中心としており、研修等の集合教育やマニュアル等の文書はあくまでも職場指導を補完するものと位置づけているから、研修に参加していないこと等から駅員の指導・教育が十分なされていないということはできない。
(原告の主張)
被告は、旅客運送事業を営む者として、乗客が安全・快適に鉄道を利用できるよう、日常業務の中で、その駅員に対して、研修・教育・指導する義務がある。したがって、乗客の中には、健常者もいれば車いすを使用している身体障害者、言語障害者、高齢者、幼児等がいることを当然の前提としているのであるから、被告は、駅員に対して、車いす利用者その他のハンディキャップを有する乗客を健常者の乗客と同様に、安全・快適に鉄道を利用できるよう接遇・介助につき、研修・教育・指導すべき義務を負っている。
にもかかわらず、被告は、駅員に対して接客についてのマニュアルを配布したり、研修を行ったりするなどの措置をとらず、右義務に違反している。
よって、被告は、駅員の選任・監督の際に必要とされる注意義務を果たしたということはできず、使用者責任に基づく損害賠償義務を負う。
第五 争点に対する判断
一 争点一(本件両駅にエレベーターが設置されていないことが違憲違法であることの確認を求める訴えの適法性)について(本案前の抗弁)
1 確認の訴えは、かかる法律関係の存否の確認をすることが現在の紛争の直接的かつ抜本的な解決手段として最も有効かつ適切であると認められる場合に限って許容されるものであるから、原告が、その主張する移動環境整備請求権等に基づいて、本件両駅にエレベーターを設置するよう被告に求めることができるのであれば、その設置を求める給付の訴えを提起すべきであり、また、本件両駅にエレベーターが設置されていないことによって、原告の権利が具体的に侵害されたというのであれば、それによる損害賠償を求める給付の訴えを提起すべきである。
したがって、そのような給付の訴えによることなく、その給付請求権の存否を判断する上での前提問題にすぎないエレベーターの不設置が違憲違法であることの確認を求める原告の訴えは、確認の利益を欠くというべきである。
2 原告は、損害賠償という形での給付の訴えでは、被告が違憲違法状態を放置したまま損害賠償に応じればそれで足りることになって抜本的解決にならないから、そのような確認の訴えを許容すべきであると主張するが、抜本的解決という観点からいえば、エレベーターの設置を求める給付の訴えこそが、最も直接的かつ抜本的な紛争解決手段である。
また、仮に原告の右主張が、本件両駅にエレベーターが設置されていないことにつき、具体的な紛争解決を離れて抽象的に憲法二二条等の人権保障規定又はその他の法令に違反することの確認を求めるものであるとすれば、現行法上、個々の私人のした行為や措置(不作為を含む。)について、裁判所が、具体的な権利又は法律関係についての紛争を離れて、それが憲法や法令に適合するかどうかを判断することは予定されていないのであるから、エレベーターの不設置の違憲違法確認請求は許されないというべきである。
3 よって、本件両駅にエレベーターが設置されていないことが違憲違法であることの確認を求める訴えは、不適法であり却下すべきものである。
なお、付言するに、障害者の移動の自由を実質的に保障するためには、鉄道の駅など公共性の高い施設について、エレベーターの設置を積極的に推進することが望ましいことはいうまでもなく、原告が指摘する憲法、法令の諸規定等からもそのような趣旨は十分にうかがわれるところである。しかし、憲法の人権保障の諸規定は、いずれも私人相互間の関係を直接規律することを予定するものではなく、私人相互の社会的力関係の相違から一種の私的支配関係が存し、力の優越するものが力の弱い個人の基本的な自由や平等を具体的に侵害し、又はそれを侵害するおそれがあって、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超える場合に、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条及び不法行為に関する諸規定等の解釈適用の場面において、その趣旨がしんしゃくされることがあるにとどまるところ、原告が、社会生活を営むにあたって被告学研都市線の利用が相当程度重要な意味合いを有するものであるとしても、原告と被告との間に、一種の私的支配関係が存在するとまではいえないから、本件両駅にエレベーターが設置されていないことをもって憲法の諸規定の趣旨を失わしめる違法な行為であるとまで評価することはできない。
また、原告指摘の法令の諸規定は、いずれも国ないし地方自治体と被告との間の権利義務関係を規律するものであって、原告の被告に対する具体的な権利義務に関する規定と解することはできないばかりか、右諸規定においては、国ないし地方自治体との関係においても、鉄道駅へのエレベーターの設置が費用負担などの経済的制約を不可避的に伴うことにかんがみ、被告に対して道義上の努力義務を示しているにすぎないのであるから、かかる法令の諸規定を前提としても、本件両駅にエレベーターが設置されていないことをもって違法であると評価することはできない。
しかし、右のようにそれが違憲・違法でないからといって、エレベーターの整備等に関する鉄道事業者の努力がなおざりにされることがあってはならず、身体障害者と健常者との実質的平等を確保することが社会的な要請となっている現状に照らすと、身体障害者の移動の自由を実質的に確保するための投資は、被告のする各種投資の中でも、相当程度優先順位の高いものとして位置づけられることが求められているというべきである。
二 争点二(本件両駅にエレベーターが設置されていないことによって、被告が土地工作物責任を負うか。)について
1 原告は、本件両駅にエレベーターが設置されていないことが違憲違法であり、そのことから直ちに被告に民法七一七条の責任が生じるかのように主張するが、同条は、土地工作物が通常備えるべき安全性を備えていないことによって生じた損害について、その所有者が損害賠償責任を負うことを定めた規定にすぎず、土地工作物について憲法や各種法令上の規定の趣旨に違背する点があることから、直ちにその所有者に損害賠償責任が発生すると解すべきものではない。原告は、当該工作物が通常備えるべき安全性を欠いていること、それによって具体的な損害が発生したこと及びその損害額について主張・立証すべきである。
2 なお、被告は、本件両駅の各駅舎を利用している車いす利用者に対しても旅客運送サービスを提供していることから、右各駅舎が、車いす利用者の利用に必要な安全性を有しているかを検討する。
3 本件両駅における介助状況
(一) 鴻池新田駅における介助状況
(1) 前提となる事実3によれば、鴻池新田駅においては、駅舎一階の改札乗降口から駅舎二階の電車の発着ホームまでの垂直移動手段として、階段しか設けられておらず、車いす利用者に対する駅員の介助が不可欠な状況である。
(2) そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、鴻池新田駅で行われている車いす利用者に対する介助状況は、次のとおりであると認められる。
ア 鴻池新田駅では、少なくとも平成三年一一月ころまで、駅員六名で、電動車いすごと車いす利用者を担ぎ上げて階段の昇降を行っていた(以下「おみこし方式」という。)。なお、手動式の車いすの場合には、通常付添人もいること、またその重量も電動車いすに比べると比較的軽いことから駅員二名程度で介助することも可能であった。
また、鴻池新田駅の規模では、右二名ないし六名の駅員を車いす利用者の介助のための専属要員とすることはできないことから、その時間帯によっては、他の乗客の善意に頼ったり、他の駅から応援を呼んで相応の人員を確保しなければならず、おみこし方式による介助は、人員確保の点で問題があった。(<証拠略>)
イ 鴻池新田駅では、平成三年一二月ころ、車いす利用者に対する介助に使用するため、サンワ車輌株式会社製階段用車いす運搬機(以下「旧型階段昇降機」という。)を導入した。右旧型階段昇降機は、一般にチェアーメイトと呼ばれているものであって、その詳細な仕様は左記のとおりであり、台車の下にキャタピラが組み合わせられており、キャタピラの溝と階段が摩擦でかみ合うことによって階段上の昇降を可能とするものである。なお、その昇降中、車いす利用者は、車いすに乗った状態で安全ベルトで固定されて台車に乗せられることとなる。
記
最大積載荷重
一三〇キログラム
昇降できる階段
傾斜角三〇度以下
階段での昇降速度
毎分六〜七メートル
動力 一二Vバッテリー(充電電源:AC一〇〇V)
一充電当たり使用時間 約三六分(昇降の場合)、約一八分(上昇のみの場合)(<証拠略>)
ウ 鴻池新田駅では、平成一〇年八月ころ、右旧型階段昇降機に代えて、同じくサンワ車輌株式会社製TRE―六型階段用車いす運搬機(以下「新型階段昇降機」という。)を導入した。右新型階段昇降機も旧型階段昇降機と同様、一般にチェアーメイトと呼ばれているものであって、その詳細な仕様は左記のとおりであり、その昇降態様は、旧型階段昇降機と基本的に同じものであるが、新型階段昇降機は、旧型階段昇降機と異なり、昇降速度の調整及び台車の傾きの調整を半自動的に行えるようになっており、台車に乗っている車いす利用者に対する衝撃が緩和されている。
記
最大積載荷重
二二〇キログラム
昇降できる階段
傾斜角三五度以下
階段での昇降速度
毎分13.5メートル〜18メートル
動力 二四Vバッテリー(充電電源:AC一〇〇V)
一充電当たり使用時間 連続使用約三〇分(<証拠略>)
(二) 住道駅における介助状況
(1) 前提となる事実3によれば、住道駅には、エレベーターは設置されておらず、駅舎二階改札乗降口と同三階電車発着ホームとの間の垂直移動手段としては、階段及びエスカレーターが設置されており、車いす利用者に対する駅員の介助は不可欠な状況である。
(2) そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、住道駅で行われている車いす利用者に対する介助状況は、次のとおりであると認められる。
ア まず、改札乗降口から電車の発着ホームまで上がる場合には、駅舎に設置されているエスカレーターを利用して駅員一名が介助している。エスカレーターの中には、階段状になっているベルトが車いすでの利用に適さないということで、ある操作をすると、この階段状になっているベルトの一か所に車いすが乗れる広さの水平部分が現われるようになった特殊な車いす対応のエスカレーターがあるが、住道駅に設けられているエスカレーターは、これとは異なり通常の態様のエスカレーターである。そのため、車いす利用者をエスカレーターのベルトに乗せる場合、車いすの前輪を上の段に、後輪を下の段にそれぞれ連続した二段のベルトに乗せて介助しており、車いす利用者は、車いすに乗ったまま四〇度傾いた状態でエスカレーターに乗ることとなる。(<証拠略>)
イ 次に、電車の発着ホームから改札乗降口に降りる場合にもエスカレーターを利用しているが、、通常上り専用に設定されているエスカレーターを下り用に設定しなければならず、介助する駅員一名とエスカレーターの設定をする駅員一名の合計二名が介助を行うこととなる。また、車いす利用者をベルトに乗せる場合には、後ろ向きに乗り、前輪を上の段に、後輪を下の段にそれぞれ連続した二段のベルトに乗せて介助しており、上りのときと同様、車いす利用者は、車いすに乗ったまま四〇度傾いた状態でエスカレーターに乗ることとなる。(<証拠略>)
4 本件両駅における介助の危険性
前記3認定事実を踏まえた上で、本件両駅における介助の危険性を捉えて駅舎の管理に瑕疵があるといえるか否かについて検討する。
(一) 鴻池新田駅における介助の危険性
(1) 平成三年一一月ころまで行われていたおみこし方式による介助は駅員の人力による介助のみによっている点で、また、新旧両階段昇降機による介助についても、新旧両階段昇降機の操作のため、駅員の人力による介助を少なからず必要とするという点において、駅員の不注意等による転落事故の危険性は、常に存在することとなる。それ故、かかる人力による介助を必要としないエレベーターの設置が最も望ましいものであることは明らかである。
(2) しかし、まず、おみこし方式による階段の昇降は、被告駅員六名で行うものとされているところ、仮に、電動車いすの重量(約七〇キログラム)及び車いす利用者の体重(約六〇キログラム)が合わせて約一三〇キログラムであった(<証拠略>)としても、大人六名で担ぎ上げていることを考慮すると、階段を昇降する程度の時間であれば、これを担ぎ上げることは容易であると推認することができ、転落の危険も著しく低いものと考えられる。
また、新旧両階段昇降機による介助については、両階段昇降機の内容を説明したパンフレット(<証拠略>)に、いずれも電動車いすをはじめとするいかなる車いすにも対応できる旨記載されているばかりか、その操作要員は、旧型階段昇降機では一名、新型階段昇降機では一名又は二名とされているところ、被告は、いずれの階段昇降機についても、必ず二名がついて介助を行っていた(弁論の全趣旨)のであるから、前記パンフレット等に記載されている使用上の注意について通常の注意を払えば、誤操作による転落の危険もほとんどないものと認められる。
したがって、鴻池新田駅においてエレベーターが設置されていないため、前記おみこし方式及び新旧階段昇降機による階段の昇降によらざるを得なかったことが、駅舎の管理の瑕疵に当たるとまで評価することはできない。
(二) 住道駅における介助の危険性
エスカレーターを使用した介助は、エスカレーターに乗っている間、車いす利用者が、四〇度傾いた状態で乗っていなければならないこととなるから、介助している駅員の人力に頼ることとなり、転落の危険性を否定することができない。
しかし、四〇度傾いた状態といっても、車いす及び車いす利用者の全重量が駅員にかかるわけではないから、駅員一名でこれを支えることは十分可能であって、その転落の危険は、極めて小さいものと考えられる。
したがって、住道駅においてエレベーターが設置されていないため、かかるエスカレーターによる介助をなさざるを得なかったとしても、駅舎の管理の瑕疵に当たるとまで評価することはできない。
(三) また、原告は、被告駅員の善意に頼ること及び他の乗客による好奇の目にさらされることにより精神的苦痛を受けている旨るる主張するが、これらは、車いす利用者に対する駅員及び他の乗客らの意識に問題があるのであって、これをもって直ちに本件両駅の駅舎の管理に瑕疵があると評価することはできない。
5 その上、原告が損害として主張するものは、階段昇降機やエスカレーターを使用する際に、万一転倒するなどの事故が発生したとすれば、原告の生命・身体に危険が及ぶおそれがあり、原告がそのために恐怖感を抱いたというものにすぎず、転倒等の事故によって何らかの傷害を受け、又はその危険が具体的に差し迫って現実に傷害を受けたのと変わらないような精神的苦痛を受けたというものではないところ、そのような主観的な不安感を抱いたこと自体に基づいて、民法七一七条に基づく損害賠償を求めることはできないというべきであって、このような事情を総合すれば、原告の請求は理由がない。
三 争点四1(侮辱的言動、危険行為の有無)について
1 侮辱的言動・危険行為(一)について
(一) 証拠(<省略>)によれば、次の事実が認められる。
被告駅員の中村は、平成三年頃、高度の障害を持つためそれまでは母親の付き添いのもとで電車を利用していた原告が、一人で鴻池新田駅に来て電車に乗ろうとしたことから、原告を一人で電車に乗せてよいかどうか確認する必要があると考え、原告の承諾を得ることなく、原告のかばんを開披して中にあった手帳を見て原告宅の電話番号を確認し、その電話番号を同僚の林田に教えた。
原告は、中村がかばんを開けた際、それをやめるように言ったが、原告は発声にも障害が及んでいて、発言内容を聞きとることが困難であるため、中村には、原告の意思は伝わらなかった。そのうちに、原告も、自己の意思が伝わらないことから、中村がかばんを開けるのをやめるように言うのをやめた。
林田が、原告宅に電話をかけたところ、原告の母親は、原告が単独で電車に乗ることを了解しているとの返答をした。
原告は、林田が原告の母親に対して、「今後は電車に乗せた後、事故が起こっても責任を持たない。」というような趣旨の発言をしたものと思い、その翌日、被告の苦情処理窓口に抗議を申し入れた。
被告放出駅助役の難波重治(以下「難波」という。)は、その翌日、原告宅に行ったが、原告が不在であったため、原告の母親に対して前日の経過を説明し、原告の母親の納得を得た。
(二) 中村は、証人尋問において、原告に「連絡先を調べさせてください。」と言ってからかばんを開けたと証言するが、原告本人尋問の結果に照らし、右証言は信用できない。原告は発声にも障害が及んでいるため、その発言が聞きとりにくく、その発言の趣旨を正しく理解するためには、かなり注意深く聞き取りをし、ときには聞き返すなどして時間をかける必要がある(弁論の全趣旨)ため、中村は、そのような手間を惜しんで、原告の意思を十分に確認せずにかばんの中の手帳を見たのではないかと推認される。
原告は、林田が、原告の母親に電話をかけた際、「今後は電車に乗せた後、事故が起こっても責任を持たない。」というような趣旨の発言をしたと主張するが、右電話の用件からすると、林田が、一人で乗車させることの危険性について何らかの発言をした可能性はあり、原告やその母親が、林田のそのような発言を取り違えたということも考えられるところであり、そのような発言を否定する証拠(<省略>)にも照らして考えると、原告主張の事実を認めるには足りないというべきである。
(三) 右(一)認定の中村の行為は、身体の自由に高度の障害を持つ原告の移動中の安全を考慮したもので、意図的に原告の個人情報をせんさくしようとするなどの不法な目的に出たものではないから、その目的自体は正当であるといえる。しかし、個人の所持品について、所持人の承諾を得ずに開披する行為は、プライバシーを侵害するものであり、違法であるというべきである。ただ、中村は、原告の手帳を見て連絡先を確認したほかには、原告の所持品を逐一確認するなどの行為をしたわけではなく、右開披行為によって原告のプライバシーが侵害された程度はそれほど大きいものではない。
したがって、右行為は違法ではあるが、目的の正当性、プライバシー侵害の程度が軽微であることから、その事実だけを取り上げて考えると、いまだ慰謝料をもって償うほどのものではないというべきである。
2 侮辱的言動・危険行為(二)について
(一) 証拠(<省略>)によれば、次の事実が認められる。
被告駅員の難波、万代辰雄、田中、溝田、直井及び他一名の六名は、平成三年一一月一二日午前九時ころ、鴻池新田駅内において、原告を電動車いすごと持ち上げて、階段の上まで運んだ際、階段を昇りきった場所に車いすを置いた。
その際、直井は、そのままでは階段に近すぎて危ないことや、駅員の点呼がまだ終わっていなくて急いでいたことから、原告に対し、「はよ前へ行ってや。」と強い口調で言った。
(二) 原告は、被告の駅員に電動車いすのタイヤを蹴られたと主張し、本人尋問においてもそのように供述するが、わずかに足が上がったところを見たと思うとの供述は信用できず、衝撃を感じたり、サッカーボールを蹴ったような音を聞いたというだけでは、被告の社員が原告の車いすを蹴ったとまでは認定できない。
(三) 右(一)認定の事実によれば、被告駅員の発した右発言は、身体障害者である原告に対してなされたものであって、その発言のなされた状況等にかんがみると、違法なものというべきである。
3 侮辱的言動・危険行為(三)について
(一) 証拠(<省略>)によれば、次の事実が認められる。
原告が、平成三年一二月一四日、被告環状線鶴橋駅のホームで、被告駅員の元田に対し、「今殴った人を捕まえて下さいなあ。」と頼んだが、その際、元田は電車の発車を見送っていて、原告が殴られる現場を目撃していなかったため、とっさに何のことか分からず、対処できなかった。
原告は、同月二五日、被告の苦情処理窓口に、被告の駅員に無視されたというような苦情を申し入れた。
被告社員の松本が、翌二六日、原告の自宅に電話したところ、原告は不在であったので、原告の母親に対し、鶴橋駅の助役から聞きとった右認定のような内容を伝え、原告の母親は了解した。
(二) 右認定の事実は、なんら不法行為や債務不履行となるものではない。
4 侮辱的言動・危険行為(四)について
(一) 証拠(<省略>)によれば、次の事実が認められる。
被告駅員の南澤は、平成四年四月八日ころ、京橋駅から被告学研都市線の快速電車に乗ろうとしていた原告に対し、混んでいるので次の電車にしてはどうかという趣旨の発言をしたが、原告が、それでも乗りたい旨申し出たので、そのまま乗ってもらうこととし、その際、快速電車は鴻池新田駅には止まらないので、住道駅まで行ってくださいとの発言をした。
(二) 原告は、右各発言について、「満員電車には乗ってくるな。」、「住道に行け。」という命令口調であったと主張するが、証拠上、南澤の発言がそのようなものであったことまでは認定できない。
(三) 右(一)認定の南澤の発言は、なんら不法行為や債務不履行となるものではない。
5 侮辱的言動・危険行為(五)について
(一) 被告京橋駅の駅員が、平成四年六月一日、同駅において被告学研都市線の電車から降りた原告に対し、「邪魔な車いすやなあ、他のお客さんが迷惑やないか。」との発言をしたことは当事者間に争いがない。
(二) 被告は、右京橋駅の駅員は、徹夜明けで大変疲れていたにもかかわらず、朝から車いす利用者五名の介助をしていっそう疲労が増していた状態にあったため、そのような発言をしてしまったと主張するが、たとえそのような事情があったとしても、右発言が不適切なものであることはいうまでもない。
(三) 右発言は、車いすを利用しないと移動ができない原告に対してされたものであり、原告の名誉感情を害するものとして不法行為を構成し、かつ、旅客運送契約上の附随義務違反にも該当するというべきである。
6 侮辱的言動・危険行為(六)について
(一) 証拠(<省略>)によれば、被告の駅員は、平成四年六月二一日、鴻池新田駅において、電車から降りた原告に対し、「こんな遅く帰ってきても駅員が少ないから困るやないかあ、もっと早く帰ってもらえないか。」と発言した事実が認められる。
(二) 被告は、被告駅員の田中勲が、「この時間帯に降りてこられますと普段は一人しかいないので、もう少し早めに帰られた方がいいですよ。」と言ったのであり、原告主張のような発言はしていないと主張するが、原告本人の供述に照らし信用できない。
(三) 右(一)の発言は、原告に不快感を抱かせるものではあるが、その事実だけを取り上げて考えると、不法行為や債務不履行をもって論じるほどの違法性を有するとはいえない。
7 侮辱的言動・危険行為(七)について
(一) 被告の社員が、平成四年七月六日、鴻池新田駅で電車から降りた原告に対し、「この駅は駅員が少ないから、行きも帰りも両方というのは困る。頼むから来んといてくれ。」との発言をした事実は当事者間に争いがない。
(二) しかし、右発言は、原告に不快感を抱かせるものではあるが、その事実だけを取り上げて考えると、不法行為や債務不履行をもって論じるほどの違法性を有するとはいえない。
8 侮辱的言動・危険行為(八)について
(一) 被告の社員が、平成四年八月二〇日、原告が被告環状線鶴橋駅のホームで電車を待っていたときに、原告の許可を求めずに、電動車いすのモーターブレーキを解除したことは当事者間に争いがない。
(二) しかし、これによって、原告の生命・身体に具体的な危険が生じ、又はそれが生じたのと変わらないくらいの精神的苦痛を与えたというようなものではないから、いまだ不法行為や債務不履行をもって論じるほどの違法性を有するものではない。
9 侮辱的言動・危険行為(九)について
(一) 証拠(<省略>)によれば、次の事実が認められる。
被告駅員は、平成四年九月二三日、被告環状線京橋駅南改札口において、被告学研都市線を利用して鴻池新田駅まで行こうとした原告が「今から、鴻池新田まで行きたいんだけど連絡とってもらえませんか。」と頼んだところ、当該駅員は、鴻池新田駅と連絡を取った上で、「鴻池新田は駅員がいてないから困る。」というような趣旨の発言をした。
そのため、原告は、電車で住道駅まで行ってから帰宅せざるを得なかった。
(二) 原告は、「鴻池新田は駅員がいてないからだめだ。」との発言内容であったと主張する。発言内容自体については特段の反証もないが、被告が車いす利用者の乗車を拒否しない方針で営業していることは、被告駅員も十分承知しているのであるから、明確に乗車を拒否するような発言をするとは考えにくく、原告の主張のとおりの発言内容であったと認定することはできない。むしろ、人手が足りないので困るという程度の意味合いでの発言であったと考えるのが自然である。
(三) 右(一)認定の発言は、原告に不快感を抱かせるものではあるが、その事実だけを取り上げて考えると、不法行為や債務不履行をもって論じるほどの違法性を有するとはいえない。
四 争点三2(被告の責任原因、損害の発生とその額)、3(駅員の選任・監督上の注意義務)について
1 以上のとおり、原告主張の侮辱的言動・危険行為のうち、(二)(五)は、被告社員の不法行為及び被告の債務不履行に当たるというべきである。
2 監督上の注意義務違反の有無
被告の駅員に対する監督・指導について、証拠(<省略>)によれば、被告では当時、特に研修、マニュアルの配付といった組織的な監督・指導を行っていたのではなく、現場個々の個別的指導に委ねていたものと認められる。そして、かかる現場における指導体制の確立のために組織的な対応を行っていたと認めるに足りる主張立証がないから、被告は被告駅員に対する監督・指導について注意義務を尽くしたということはできないというべきである。
3 損害の範囲について
そもそも、侮辱的言動・危険行為(二)(五)を行った被告駅員は、鴻池新田駅などにおいて、原告の介助に直接携わっていた者であり、原告は、かかる被告駅員にある種その身を委ねるべき関係にあったのである。かかる点にかんがみると、日常から介助を受け、その身を委ねていた被告駅員から、かかる侮辱的言動を受けた原告の精神的苦痛は決して小さいということはできない。それ故、被告が、後日広報課社員を通じて原告ないしその母親に謝罪した等の事情を考慮したとしても、右精神的苦痛は、一〇万円をもって慰謝されるというべきである。
第六 結論
一 原告の被告に対するエレベーターが設置されていないことの違憲違法確認請求は、不適法であるからこれを却下する。
二 原告の被告に対する土地工作物責任(民法七一七条)に基づく損害賠償請求は、理由がないからこれを棄却する。
三 原告の被告に対する使用者責任(民法七一五条)に基づく損害賠償請求は、金一〇万円及びこれに対する平成六年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合の金員の支払を求める限度で理由があるのでその限度で認容し、その余は理由がないから棄却する。
(裁判長裁判官竹中邦夫 裁判官森實将人 裁判官武智克典)